ハリケーンや山火事、地震などの災害を対象にした「大災害債」に投資家の関心が集まっている。強い需要と近年多発する災害を背景に2025年の発行額は7月に24年の年間実績を超えた。(大災害債の1~7月の発行額は182億ドル(約2兆7000億円)となり、年間で過去最高だった24年(176億ドル)を既に超えた。)
大災害債は保険会社などが災害時に契約者へ支払う保険金リスクを投資家に移転する証券化商品の一つ。英語のCatastrophe(大災害)の略語を冠して「CAT(キャット)ボンド」とよばれる。大きな災害が起きた際、債券の元本は保険金に充てられる。災害が起きなかったり被害が小さかったりすれば元本が戻るほか、利息収入を得られる。
一般的に3年程度の償還期間の間に一定額を超える損害が発生しなければ利息と額面の金額が払い戻される。元本も満期まで保有すれば、返還される確率は高いと言われている。
CAT債のパフォーマンスは主に災害の発生や被害規模で決まり、株や社債といった伝統資産との値動きの相関性が低い。また、CAT債自体は保険会社などを背後に持つ特別目的会社(SPC)が発行するため、保険会社の信用リスクから隔離される。
トランプ米政権の高関税政策などによってマーケットの動きが読みにくくなっているなか、ポートフォリオにCAT債を組み入れてリターンを安定させたいという投資家からの引き合いが強い。
だが、もしも災害によって保険金の支払いが発生すれば、CAT債の元本が充てられるため、被害規模によっては全損する可能性もある。
実際に17年は米国で「イルマ」などハリケーンが複数発生したほか、山火事やメキシコの大地震など災害が重なって、多くの投資家が損失を被った。世界気象機関(WMO)によると24年には世界で「前例のない」災害が100件超発生しており、CAT債の元本が毀損するおそれは否定できない。
投資先の偏りも市場の課題だ。ファンドマネジャーらはハリケーンや地震といった災害の種類に加えて北米やアジア、欧州など地域も分散することでリターンを高めつつ災害発生によるリスクを減らす。
世界銀行がメキシコでのハリケーンや地震に関する商品を発行するなど、被害が大きくなりやすい新興国を対象にした新しい種類の商品が増えつつあるものの、選択肢はまだ少ない。現状では残高ベースで商品全体の7割を北米のハリケーンが占める。
発行事例が少ない地域や災害では、想定される被害額などのモデル化が進んでいない。投資には慎重な見極めが必要だとも指摘されている。