世界の金融市場の総本山である米国。圧倒的な経済力にくわえ、幾多の金融危機を引き起こそうとも新しい投資先や手法が次々に生まれるダイナミズムが世界のマネーを引きつける。
そんな米国市場をけん引する投資家のフェルマーは自然災害を投資対象とする大災害債(キャットボンド)を専門とし、残高が100億ドル(約1兆5000億円)を上回る世界最大の大災害債の投資家だ。
大災害債は保険会社などが自然災害時に支払う保険金リスクを投資家に移転する証券化商品の1つだ。大きな災害が起きた際、債券の元本は保険金に充てられるため損失が生じる。逆に災害が起きなかったり被害が小さかったりすれば元本が戻るほか、高い利息(クーポン)収入を得られる。株や国債などの伝統資産との相関が小さいことに加え、年20%に達することもある高いリターンが魅力とされる。
フェルマーは物理学や気象学の博士号取得者など大災害投資に20年以上の経験を有する専門家を多数抱える。ハリケーンの精緻な進路予想など独自の気候シミュレーションを作成し、被害額や債券価格への影響を見極める。
フェルマーの最高投資責任者(CIO)ジョン・ソはマサチューセッツ工科大(MIT)で物理学を修め、ハーバード大の博士課程で生物物理学を学んだ。長く投資とは無縁の人生だった。転機は1990年代、ウォーレン・バフェットがカリフォルニア地震保険庁(CEA)と大災害債の契約を結び、莫大な利益を得たこと。「数学者のパスカルやフェルマーのようにギャンブルのようなこの巨大な市場を分析できるかもしれない」。数学や物理に魅了されてきたジョン・ソは引き寄せられた。そして今や世界最大の大災害債の投資家となった。「自分の投資スタイルは自身のキャリアのすべてを組み合わせたものだ。投資家として成功する方法は無限にあると信じている」